ドタバタweek

先週は大学で一週間の短期プロジェクトに参加しました。
日本の大学からゲストで来られた教授の授業で、漆をベースにした新素材で新しい商品をデザインするという内容でした。日本の伝統工芸を如何にして次の世代に伝えて行くか、社会やライフスタイルが時代と共に変化する中、デザインに何が出来るのか。一週間でコンセプトを作り、実際のプロダクトのプロットタイプまで作る必要があるので、とても大急ぎで駆け抜けた授業でしたが、熊野筆という伝統工芸品の産地で生まれ育ち、実家もそれを生業とする私としては、色々と考えさせる事の多いプロジェクトでした。

熊野筆は日本の毛筆の8割のシェアを占める産地ですが、戦後の書道教育の衰退や毛筆からペンへの筆記用具の変遷で、業界自体は落ち込んで来ていました。それが、その技術の応用による化粧筆のブランド化によって、昨今はイケイケゴーゴーな盛り上がりを見せています。それも時代の必然かな・・などと眺めていたものの、今回のプロジェクトを通じて、少し違った思いを抱く様になりました。伝統的な工芸をビジネスとして残す為に、新しい領域に転向するのも一つの手段ですが、それだと、これまで、その工芸品が作って来た文化自体は廃れてしまうことは否めません。新技術の応用などを通じて、その廃れ行く文化自体を現代に通じるものにRedesign出来たなら・・・・そんな思いを抱いたプロジェクトでした。

それにしても発想に国民性って出るものです。
私のグループは素材自体のもつ100%天然素材故のベネフィットに着目して玩具をデザインしたのですが、他のグループには漆器自体が背景に持つ「良い物を長く使う」という考え方に共鳴し、消費主義へのアンチテーゼとして、敢えて、ドイツで使い捨てされているプラスチック製のフォーク&ナイフと同じ型でハイクオリティーなプロダクトを作ったチームもありました。個人的にはとっても、この少々皮肉の入った「ドイツ」っぽいアプローチがツボでした。また、新素材の性質上、廃案にはなりましたが、漆の修復技術(いわゆる「金継ぎ」)にインスピレーションを受けて、大量生産前提の北欧の某家具ブランド「○ケア」のカップを敢えて壊し、それを金継ぎで修復したプロダクトを作るという案も出たりして、個人的にはとても印象に残りました。

消費主義の話をすると、彼らは口を揃えて、プラスチック製品など、安価な物をどんどん使い捨てる点は日本もドイツも一緒だと言いますが、私の目には、ドイツは随分、その点への問題意識が高い国の様に移ります。冬になれば安価なプラスティック製のソリが出回る中、木製のソリを大事に使い、家具や日用品も知り合い同士で融通し合ったり、フリーマーケットを活用したり、そう簡単にゴミにしないところは、私の好きなドイツの一側面です。この3年間で、私も多くの恩恵にあずかりました。

そんな、いろんな思いを起こさせるプロジェクトですが、実は、完全に参加者という立場に安住出来ない事態にも直面していました。教授が英語を話される方ではなかったので、急遽、当日から参加者兼通訳者となったのでした。これに伴い、一週間、プロジェクトのみならず、先生の講演会から果ては、大学同士の提携に向けた打ち合わせなどの通訳まで引き受けるはめになり、加えて、急に次女が嘔吐下痢症を発症するなど、ハチャメチャな展開に。ですが、神様はいるものです。幸運にも今期、博士論文執筆の為に聴講生になっている日本人の友人が、このプロジェクトにもオブザーバー参加していた為、タッグを組んで一緒に乗り切る事が出来ました。同じように小さな子供を抱えるお母さんである彼女の存在が、次女と学校の間で気持ちが一杯一杯になった私にとって、どれだけ有り難かった事か。。。ゆったりと優しい彼女の存在と、夫からの「楽しめばいいじゃん」という一言で、二児を抱え、当初、予定外のことに対して焦りしか感じていなかった私もマインド・セットを変えて、楽しむ事が出来ました。

そんな一週間の最後に、先生から通訳のお礼にということで、素敵な蒔絵の漆器を頂きました。

震災と3.11.の影響から、今回のテーマに会津塗を選ばれた先生の事、ハチャメチャな事態、差し伸べられた色んな手、プロジェクトの最中に拾った素敵な言葉達、一緒にチームを組んだドイツ人ガールズのこと、日本らしさについて、、、、きっと、これからも、この漆器をみる度にたくさんの事を思い出すはずです。