遠距離夫婦考

先日、スカイプで久しぶりに学生時代の友達と話した。彼女は、去年、見事、日本の公認会計士試験に合格したのだけれど、この度、実務研修で、2年間、東京で暮らすことになったと言う。なんと彼女、ここ数年は海外駐在員の妻。2年間、日本からの通信教育だけで勉強して、この難関資格試験に合格したのだ。試験勉強にはハンデの多い環境の中、たった2回の挑戦で合格をつかみ取った集中力とひたむきさに感動した。旦那さんは海外で仕事があるから、これからは海を越えて遠距離夫婦生活が始まる。


先日出会った、ある代理店勤務の女性は東京で働いているがパートナーはアメリカで仕事をしていると言っていた。


会社の同期の女性は工場立ち上げの為、一年間、夫を日本に残し、中国に行っていた。


決して多数派でもなければ一般的でもないけれど、自分も含めて、この頃、こんな風に女性の仕事が理由で、遠距離夫婦生活を送る夫婦が増えている気がする。


自分の経験から言えば、今の日本では男性の単身赴任は誰も何も言わないのに、女性の単身赴任への反響は笑ってしまうくらい大きい。私が初めて、単身赴任でドイツに行くと告げた時、祖母は「心臓が・・・・」と呻きだし、両親は固まっていた。中には、寛大にもサポートしてくれた夫や夫婦仲の事までとやかく言う人がいたりもして辟易したものだ。私は何を言われても構わないのだけれど、ちょっとこれは応えた。私は決して、遠距離夫婦推進論者ではないけれども、あまりに大げさな反響には「ちょっと待ってよー」と言いたかった。


もちろん、夫婦が離れて暮らすよりは、ひとつ屋根の下で暮らせる方がずっといいに決まっている。しかし、結局のところ、この手の話は夫婦間の問題だし、アイデンティティーの問題を舐めてはいけない。「人はパンのみに生くるにあらず」。パンではなくて、相手に生き生きとした人生を与えるのも男の度量じゃないか、と思ってしまう私は欲張りだろうか。


愛情ってのは、残念ながらとても複雑なのだ。いくら一緒に暮らしていても、隣で眠っている人の気持ちが分からなくなったりしたら・・・・・・こちらの孤独の方が相当の悲劇だ。


・・・・なーんて、こんな危険思想を持つ妻が増えたら、きっと、世の中の既婚男性は困るんじゃないかと思うようなことばかり、書きましたが、私としては、上述の「駐在員の妻」から「公認会計士補」へと新しいチャレンジに踏み出す友達に、そしてそれをサポートする決断をした彼女の夫に、エールを送りたいのであります。そして、不毛で無責任な周囲のノイズに、どうぞ無縁であって欲しいと祈るばかり。

えっ、私ですか?欧州では、お陰で、とても良い経験をさせてもらえましたし、「できちゃったけど」駐在で、とても心配かけちゃいましたので、この次、相手がチャレンジするときは、私がサポートする番だと、よくよく肝に銘じております(笑)

そういえば、坂口安吾の書いた「悪妻論」なんて過激な文章があったけれど、あれ、今よりも保守的だった戦後の日本社会でどう受け止められたんだろうか?そもそも本人も本気でそう思って書いたのだろうか。。。ふと思い出した。きっと、あれ、酔っ払って書いたに違いない。